INTERVIEW

大吉山に登ったとき、初めての感じがしなかった

――2015年に「響け!ユーフォニアム」が始まった当初の思い出をお聞かせください。

当時のことで言うと、オーディションがやっぱり印象深いですね。まず、カルテットの4キャラの資料をいただいて「どれを受けますか?」と聞かれて、第一印象で「久美子は違うかな」と思ったことを覚えていて(笑)。久美子は「わからない」「つかめない」という印象が強くて。その次に葉月も私の中でしっくりこなくて「違うな」となって、麗奈を受けようと思ったんです。当時の私はお仕事をしていく上で「もっと前に進まなきゃ」という時期でしたし、悔しい思いもたくさんしていましたし、「悔しくて死にそう」という麗奈の言葉が自分の心境にも重なって、すごく胸に刺さって。それで麗奈は絶対に受けたいと思ったのと、緑輝は楽しそうだから、ちょっとやってみたいなと思って(笑)。私の中の振り幅も見せられたらと思って、二人を受けさせてもらったんですけど、緑輝に関しては「(声の演技として)背をもっと低くしてください」というディレクションをいただきつつ、楽しんでやることができました。麗奈のときは気合いを入れなきゃと思ったら、熱くなっちゃって、たしか上着を脱いだんですよね。そのときのしぐさがシリーズ演出の山田(尚子)さんの中で麗奈っぽかったらしくて、それが印象に残ったという話を後々聞きました。お恥ずかしい話、オーディションを受けたときは京都アニメーションさんの作品だと気づいていなくて、受かってからマネージャーに教えられて「あー! 京アニさん!」となって、二重に喜びを感じた記憶がありますね。……まあ、アフレコが始まった頃の私は、本当に周りの方に申し訳ないほど、とんがっていたんですけど。

――「とんがっていた」というのは?

私は今でもオンオフの切り替えが苦手な部分があるんですけど、当時は今よりもっと苦手で、麗奈のあの青臭さというか、多感な時期だからこそのとがり具合に私も影響されてしまって。とにかく必死すぎて、周りがまったく見えず、空回りしていたような思い出があります。今でもカルテットのキャストで話をすると「ちかぺは最初とっつきにくかったね(笑)」みたいなことを言われるので。

――このリレーインタビューの1回目で、黒沢ともよさんが同じような話をされていました。「とにかく誰にも負けたくない!くらいの感じで、視野が狭くなっていた」と言われていたので、何かそういう気持ちになってしまうような現場でもあったのでしょうか?

そうなのかもしれないですね。でも、それがとてもいい方向に作用していた現場だったと思います。あの空気感だったからこそ、部活動でのリアルな緊張感だったり、多感な時期との重なり合いだったりが表現できたんじゃないかなという。その上で、滝先生を演じる櫻井(孝宏)さんをはじめ、周りを固めてくださるベテランの方々がうまく包み込んでくださって、それもまた作品とすごくリンクしていたなと思って。ありがたい現場で長くやらせてもらえているんだなということは、よく感じますね。

――これまで麗奈を演じてきて、麗奈の成長はどのように感じていらっしゃいますか?

最初の頃は「自分」「トランペット」「滝先生」だけで構成されていましたからね(笑)。そこから久美子と出会って、北宇治高校吹奏楽部のみんなとぶつかり合いながら、2年生になった時点ですごく変わったといいますか、表情も柔らかくなって、久美子だけじゃなく、周りにも少しずつ気を許しているような描写が増えていって。(作中時間の)1年でこんなに変わるというのが、あの年代の1年間の濃さがどれほどのものかを表しているなと思いました。久美子と麗奈に関しては、出会いと、片想いと、付き合い始めが1年生のときにバーンと終わって、2年生から夫婦ですね(笑)。滝先生への想いに関しては、こじらせがすごいなと思ったこともあったんですけど、「これ!」と決めたら一途な姿は自分の中でも納得したり、共感できるところがあったりして、私自身も麗奈の成長で気づかされることがあるなって、いつも思いますね。うまく伝えられないんですけど、周りと一緒に音楽を作るということが、以前は最終的に自分のためだったのですが、今はちゃんとみんなのために、みんなと一緒に音楽を作るというふうになっていっているような気がします。

――久美子と二人のシーンも多かったと思いますが、その中で印象に残っていることはありますか?

本当にたくさんありすぎて、でも、やっぱり大吉山のエピソードは外すことができないですね。最初のシーズンの8話で、初めて大吉山に登って、二人の仲の関係値が埋められていくというか、お互いの気持ちを探り探りではありながらも素直にぶつけ合っていく。その「山を登る」ということに関する描写力がすごいなと。私は去年初めて大吉山に登ったんですけど、初めて来た感動がなかったんですよ。逆に何度も来ている場所に、久しぶりに登ったくらいの感じで。その感覚にしてくれるのは演出や絵の力もそうですし、ともよちゃんが引っ張ってくれたおかげもあって、本当にスタジオで山に登っていたんですよね。

――そのくらい気持ちが入り込んでいたんですね。

ヒールで登って足が痛いという感覚も、すごくリアルに感じていて。重い楽器を持って、じめじめした空気感の中、山を登って、二人が感情をぶつけ合う。ともよちゃんとのお芝居も、それまでも楽しかったんですけど、あのときにお互いの気持ちがリンクした……って、私が勝手に思っているだけかもしれませんが、ともよちゃんが演じる久美子に出会えてよかったなと、強く感じた瞬間でした。その後も二人はまた何度か大吉山に登っていて、何かでモヤっとしているときに答えを一緒に見つけるというのが通例になっていて、そのたび濃厚なお芝居をさせてもらっているので、大吉山のシーンはすべて印象的ですね。

昔の自分を愛せるようになったのは、麗奈のおかげ

――ほかに印象的なシーンがありますか?

何度もお話ししたことではありますけど、劇場版の「誓いのフィナーレ」で七瀬彩夏ちゃん演じるみっちゃんが「来年は一緒に吹きたいです」と葉月に言った瞬間、アフレコのときも、劇場で見たときも、涙があふれてきたんです。ちょっと昔の麗奈とかぶる部分もあるなと思って。ひとりで出来ちゃう子だからこその苦悩とか、最初は孤立していたところとか、みっちゃんのエピソードでありつつ、麗奈と重ねて見てしまった部分があって。麗奈役として、胸に来るものがあったというのはありますね。滝先生の奥さん関連のシーンは、アフレコで後ろから見ているだけでもつらかったです。2期のイタリアンホワイトの話の辺りは、朝井彩加ちゃんと麗奈・葉月の失恋組二人で「くー!」ってなっていました(笑)。そういう思い出も含めて、第二の青春をこの作品で味あわせてもらっているなと思っていて。自分の実際の人生での青春よりも、「響け!ユーフォニアム」での青春のほうが濃いから、たまに勘違いしそうになるんですよ。実際は帰宅部だったんですけど、吹奏楽部にいたような気がしてきちゃうから「そうだ、私、帰宅部だったんだ」って(笑)。トランペットも吹けないくせに、吹いている感覚を思い出せるという。そのくらい濃い青春を味わっています。

――久美子や滝先生以外で、印象に残っているキャラクターはいますか?

やっぱり、あすか先輩ですかね。関係性で言えば、久美子とあすか先輩の二人がよくフィーチャーされると思うんですけど、麗奈は「特別になりたい人」で、あすか先輩は「もう特別になっている人」という対比があって、そこはいつも演じながら意識してしまうところでした。かつ、久美子が途中からあすか先輩のところばかり行っちゃうので(笑)。麗奈自身と何か大きな絡みがあったわけではないのですが、あすか先輩には久美子とは違う引力を感じるなと思いますね。あとは優子先輩……。

――因縁の相手ですね(笑)。

でも、優子先輩のおかげもあって麗奈は柔らかくなったと思うので。ちゃんと怒ってくれる人、恐れずにぶつかってくれる先輩がいるというのは、いいことですよね。ああやって憎まれ口をたたき合える人も、なかなかいないと思うんですよ。久美子以外でナチュラルに接することができる優子先輩という存在は大きいので、卒業しちゃってからはどうなることやら……? それもまた。楽しみですけどね。

――ちなみに、安済さんご自身に性格が似ていると思うキャラクターはいますか?

みんな好きすぎて、似ているなんて言うのはおこがましいなと思うのですが、年々、麗奈との共通点があるなと思うようになったんですよ。ふとした選択で「麗奈もこれを選びそう」と思うことがときどきあって、「これが私の中の麗奈なんだ」って思うようになったりして。あと、最初の頃に私がとんがっていたことも、当時のそういう私だから麗奈役に受かったんだなって、すごく思いますね。とんがった気持ちが、麗奈の「特別になりたい」とリンクして、結果うまくいったというか。これがもし麗奈に出会えていなかったら、ただ単に恥ずかしい思い出ですからね(笑)。麗奈に出会えて本当によかったなと思うし、そのときの自分も愛せるようになったのは、麗奈のおかげだなと思います。

――北宇治カルテットとしての活動で印象に残っていることはありますか?

私自身が声優としてそんなに歌を歌っていないので、きっと「アニサマ」に出る人生は歩まないと思っていたんですけど、2回も出させてもらって、すごく楽しくて。歌に対する苦手意識を吹き飛ばしてくれるほどの作品の力と、カルテット4人の絆があるというのが、本当にありがたいですよね。あとは、私の中で制服を着るというのが、正直もう……。カルテットの中でいちばん年上だし、私が着てもいいものなのか?と最初は思ったんですよ。キャラクターが好きだからこそ、私が着ることでキャラクターのイメージを壊さないかな?みたいな心配があって。でも、何度も何度も袖を通すたびに麗奈を思い出すというか、ただ単に制服を着ているわけじゃなくて、北宇治カルテットとしての責任感を感じるようになって、途中からは周りから何と言われようと着ていってやるぞ!くらいの気持ちになりました(笑)。服関係で言うと、麗奈の印象的な服で白のワンピースがあったので、衣装が制服じゃないときに白ワンピを着させてもらったりとか、キャラクターのカラーが紫なので、紫もよく身につけたりとか、私自身はそこまで白と紫を選びがちではなかったんですけど、今やもう馴染んできて、それもまたカルテットとしての活動のおかげかなと思います。

――これまでの5年間、そしてこれからも「響け!ユーフォニアム」を応援してくれるファンの方へのメッセージをお願い致します。

いつも「響け!ユーフォニアム」を応援してくださって、そして楽しんでくださり、本当にありがとうございます。この5年間、舞台挨拶やイベントなど、たくさん触れ合う機会がありましたし、触れ合わないときもお手紙などをいただいて、何か反応を受け取るたびに皆さんあっての「響け!ユーフォニアム」だなと強く感じております。今はいろいろ大変なことのあるご時世ですけれど、この「響け!ユーフォニアム」の世界はきっと変わらずあるものだと思うので、これからも皆さんそれぞれの人生を歩みながら、帰ってくる場所として楽しんでいけたらなと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします!

CAST INTERVIEW RELAY! 04

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