Interview

『響け!ユーフォニアム』松田彬人×TVアニメ『二十世紀電氣目録』湖東ひとみ 劇伴作家音楽対談
英国式ブラスバンドと吹奏楽――管楽器で作品を彩った音楽たち

Interviewer: 鳥越 濯(ハートカンパニー)

鳥越濯(以下鳥越)9月11日(金)に映画の公開を迎える『響け!ユーフォニアム』シリーズ(以降、『響け!ユーフォニアム』)と、7月よりTV放送&Netflix配信中のTVアニメ『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-(以降、『二十世紀電氣目録』)』、今回2つの作品でそれぞれ劇伴音楽を作られたお二人の対談が実現しました。『響け!ユーフォニアム』で吹奏楽曲や劇伴を手掛けてきた松田彬人さんと、『二十世紀電氣目録』で英国式ブラスバンドを取り入れた劇伴を手掛けた湖東ひとみさん。今回はお二人の作曲家としての視点から、2つの作品の劇伴音楽について、少しマニアックなところまで掘り下げて伺いたいと思います。

一同よろしくお願いします!

英国式ブラスバンドで彩る『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』の音楽

鳥越まず、『二十世紀電氣目録』についてですが、劇伴の大きな特徴として、管楽器を軸に音楽が作られていますね。編成には英国式ブラスバンドが使われていますが、そもそも「英国式ブラスバンド」というのはどういう編成なのでしょうか。

湖東ひとみ(以下湖東)英国式ブラスバンドは、19世紀くらい、イギリスの産業革命時代に、労働者階級の間で普及した音楽文化です。中心となる楽器は、サクソルン属の楽器とトロンボーンです。皆さんにも馴染み深いであろうトロンボーンやトランペットは「円筒管」といって、まっすぐな管が楽器に含まれているんですが、サクソルン属の楽器は、管の始まりから終わりに向かってだんだん太くなっていく「円錐管」の楽器になっています。
楽器を具体的に言うと、E♭コルネット、いわゆるソプラノ・コルネットと、B♭コルネットが中心になっていて、フリューゲルホルン、テナーホルン、バリトンホルン、ユーフォニアム、あとトロンボーン。それからE♭バス、B♭バスと、打楽器。これらの編成の音楽が、英国式ブラスバンドです。

鳥越そもそも、『二十世紀電氣目録』ではなぜこの英国式ブラスバンドの編成を選ばれたのか改めて、この記事を見ている方にお伝えいただけますか?

湖東一番最初の音楽打ち合わせで、「本作は、弦楽器だと少し目線が高く高尚なイメージになってしまうので、作品の絵の雰囲気とは合わないんじゃないか」という話になりました。その中で、太田監督から「吹奏楽というのも良いのではないか」という提案をいただいたんです。
もともとオープニング曲を制作した際にも、音楽プロデューサーの斎藤さんと、作品世界にスチームパンクという設定があることから、「スチームパンクには金管楽器が使われるイメージもあるよね」と話していました。そうしたオープニング制作の流れも受けて、劇伴でも金管楽器や木管楽器をメインにした編成を考えることになりました。
もう一つ大きかったのが、太田監督からオープニング制作の段階から「新しいことに挑戦したい」というお話をいただいていたことです。せっかくなら劇伴でもそこに乗っかって、何かオリジナリティのある編成にできないかと考えました。そこで閃いたのが「英国式ブラスバンド」で。私自身、存在はもともと知っていたものの、そこまで深く触れたことはなかったので、じゃあ今回チャレンジしてみよう、と。
ただ、英国式ブラスバンドだけでは、劇伴としてさまざまな場面の音楽を作っていくには、表現の幅や音域のレンジが足りない部分もありました。そこで最終的には、英国式ブラスバンドをベースに、吹奏楽の要素も取り入れたハイブリッドなオリジナルの編成を作ろう、という形にたどり着きました。

鳥越「英国式ブラスバンド」と「吹奏楽」、音の響きはやっぱり違いますよね。

湖東そうですね。英国式ブラスバンドと比べて、吹奏楽の方がいろんな音色があって、木管、金管、打楽器それぞれの楽器の個性が豊かなんじゃないかなと思います。英国式ブラスバンドの場合、サクソルン属の楽器が円筒管の楽器と比べて非常にまろやかな音で。よく言えばふくよかな音色が出せるんですが、一方でバリッとしたキャラの濃い音が出しにくいというデメリットもあって、何かの楽器を意図的に目立たせたり、それを楽器の音色に頼ったりすることが難しかったです。ただ、非常に混ざりやすくアンサンブルしやすい音色ではあるので、目立たせたい時はトロンボーンの力を借りて、バリッとした成分を補強したり、譜面上で、ソロパートを強調したアレンジにしたりして工夫しました。

二つの作品、それぞれの音楽の魅力とは

鳥越お二人には事前に両作品に触れてきていただいたので、それぞれ感じられた両作品の魅力を語っていただきたいと思います。まず、松田さんは『二十世紀電氣目録』をご覧になられていかがでしたか。

松田彬人(以下松田)音だけでも雰囲気が相当ありますが、さらに映像としてスチームパンクの要素が加わることで、独特の世界観がより色濃く感じられました。

鳥越世界観は相当こだわられていますよね。

湖東京都アニメーションさんの作られる画そのものが、背景から登場人物の表情から何から、こだわりで溢れているじゃないですか。それに負けないように、英国式ブラスバンドという編成を選んだこともあるので、この編成ならではのこだわりを持ちつつ、作品の背景であったり、時代であったり、登場人物の心情に寄り添えるようにアレンジして、曲を書いていくっていうところは強く意識していました。

鳥越湖東さんから見て、『響け!ユーフォニアム』という作品はいかがでしたか。

湖東私は学生時代に吹奏楽は経験していないのですが、コンクールだったり、部活内でのことっていうのがリアルに描かれてるのが印象的でした。その中で、綺麗で素敵な絵や、魅力的な登場人物たちの中で繰り広げられてるちょっとリアルな葛藤とか、コンクールとか曲に対する思いっていうのが、音楽をやってた人からすれば、「ああ、分かる分かる」みたいな側面もあると思いますし、逆にやったことない人にとっても、仮想体験ができちゃうくらい、リアルに描かれているところ、またいい意味でちょっと人間くさい部分もあったりするところが魅力的な作品だなと感じています。

鳥越逆に『響け!ユーフォニアム』について、松田さん目線でのおすすめポイントはどこですか?

松田劇伴の中に、吹奏楽曲として作った自由曲のフレーズを入れ込むことができたのは嬉しかったですね。自由曲の印象に残るフレーズを繰り返し演奏することで、余計に印象をつけることもできたと思いますし、長い間関わってきたからこそ、そういったことにもチャレンジできたのだと感じています。ぜひ、自由曲と劇伴のつながりにも注目して聴いていただきたいです。

鳥越湖東さんから見た『二十世紀電氣目録』のおすすめポイントはいかがですか?

湖東やっぱり「こだわり」かな。新しいことへの挑戦と、それを表現するこだわりが詰まっているところ。でも物語としてはとてもシンプルで、「再起」というテーマに向かって、いろんな登場人物が葛藤し、苦労しながら明るい未来に向かって突き進んでいく。そのパワーに一貫性があるところが魅力だなと思います。

松田やっぱり個性が強いですよね。キャラクターも、背景も油絵のようだし、妄想の世界に入ったときなんてものすごいことになるし、オープニングも毎回変化を加えてくるし、すごいなと思いながら観ています。

ユーフォニアムは“カラオケで勝手にハモってくる人”!?

鳥越英国式ブラスバンドと吹奏楽の間のわかりやすい共通項として「ユーフォニアム」という楽器について、改めてどういう魅力があると思いますか?

松田ユーフォニアムって、カラオケに行った時、勝手にハモって裏を取ってくる人みたいだなって思っています。主役にもなるけど、どちらかといえば裏方の方が得意で、寄り添ってくるやつみたいな。あ、いい意味で、ですよ(笑)

湖東英国式ブラスバンドの中でも、サクソルン属の楽器の特徴として、先ほどから言っているまろやかさがあるんですが、その中でもユーフォニアムは、あったかい。陽だまりのような、お母さんみたいなあたたかさというか。松田さんも仰った通り、主役にもなれるし、縁の下の力持ちにもなれる。そしてここぞというときにソロをやると、なんかこう懐かしいというか温かいものを思い出させてくれるような。そんな効果のある、寄り添ってくれるし、力も強い音色の楽器だと思います。

鳥越お二人の中で、「ここは絶対ユーフォに吹かせたい!」みたいなことってやっぱりあるんですか?

松田僕は割とカウンター※1に行かせたがりですけど……。どうなんでしょう。僕はまだまだユーフォニアムのことを知り足りないのかもしれない。

鳥越シリーズ完結作の「最終楽章」が公開になるというのに!

一同(笑)

松田でも、まだまだ生まれて新しい楽器なので、きっと僕もまだ知らないユーフォニアムの音ってたくさんあるんだろうなと思っています。

湖東歌モノに例えるなら、落ちサビとか、Dメロみたいな、美味しいところにメロディーとしてソロで使いたくなりますね。トロンボーンに比べて、演奏時のピストンで細かい音の動きが出せるので、そういったトロンボーンと似たような雰囲気を持ちながら、動きとしても見せ場を作りたいようなフレーズで、ユーフォニアムを活躍させるのも格好いいなと思っています。

松田吹奏楽って楽器が多いから、組み合わせ次第で、混ざった音の中でいろんなバリエーションが出せるから、単純にハーモニーを奏でるにしても、全然混ざったときに違う音色になったりする面白さがありますね。

湖東ユーフォニアムが一本か二本かってだけでも全然違いますよね。

ピアノを使わず、管楽器で心情を描く

鳥越ここからは、音楽によりフォーカスして伺っていきたいと思います。松田さんは、『二十世紀電氣目録』の音楽を聴かれた時、どういう印象を持たれましたか。

松田例えば、感傷的なシーンで、感情を乗せたり内面的なものを表現しようとしたりしたとき、ここはピアノで鳴らすよなっていうところも、全部管楽器なわけじゃないですか。それが斬新だなと。でも、それは違和感ではなくて、世界観にマッチしているから、納得感があって、すっと入ってきました。

湖東ピアノ、使いたかったですよ(笑)

松田アルペジオ※2とかも全部管楽器ですもんね。

湖東そもそも曲を書き始める時って、割とピアノを使ってスケッチを始める方も多いと思うんです。実際私もピアノから書くことが多いです。ピアノの音って、独特な減衰音※3で、一つの音を鳴らすだけで心に響くというか。それだけ魅力的な音なので。でも、やっぱりその心に触れやすいピアノの音をあえて使わないというところで、じゃあ本来ピアノでやりそうな曲をどうやって、金管や木管で表現するかというところはかなり考えました。ピアノでやりたいことをただ管楽器に置き換えるだけというのはナンセンスだと思いますし、金管楽器として、木管楽器として、より心に触れられるような旋律だったり、音域だったりを駆使して、アレンジ頑張りました!

松田管なのに和なテイストの曲もありましたよね。あの時代を体現しているような。あれ良いなと思いながら見ていました。

湖東わかってくださって嬉しい。未来視の盆踊りのシーンで使われる曲なのですが、最初にお囃子のリズムを取り入れたところ、盆踊りらしくなりすぎてしまって、作品の方向性とは違うということになりました。そこで、お囃子のように聴こえないよう気をつけながら、ティンパニで似たリズムを演奏するなど、盆踊りの雰囲気だけを残す工夫をしました。

お互いの音楽から受けた刺激

鳥越お互いの音楽に触れてみて、「こういう発想もあるのか!」と刺激になった部分はありますか?

松田劇伴においては、いかに不協和音的な音を入れていくかっていうのも重要な要素だと思うんですが、湖東さんはそういうのがお上手だなと思いました。クラスター※4も使ったりしているのかしら、とか思いながら聴いていました。

湖東私は松田さんの劇伴の引き出しの多さに感動しながら聴いていました。ピアノとか弦楽器の音色を中心に描かれていたかなと思うんですけど、そういった編成が大きく変わらない曲だったとしても、ちょっとした心情の動きがシーンごとに繊細に描かれていて。『響け!ユーフォニアム』の世界観って、例えば激動の時代が、とか、そういう大スペクタクルみたいな世界観ではないじゃないですか。あくまで高校生のお話であって、人間関係だったり、心情の動きが、日常でいろいろ起きていくという中で、絶妙な人の心の動きだったりっていうものをものすごくいろんな引き出しで表現されてるんだなっていうのに感銘を受けました。また、吹奏楽の曲を初めてお書きになったとは思えないくらい、派手に聴かせるところはバーンと大きく聴かせて、その分低音はこう聴かせるみたいな、役割分担を丁寧にされている印象もあって、素敵だなとたくさん勉強させていただきました。

松田劇伴だと金管をあんまり使えなかったから、その反動もあると思います。あと、劇場版は特にフィルムスコアリング※5だったので、感情の動きに音を合わせていくことに関しては、絶対セリフ一つ一つに合わせた音作りをしようと思ってやっていました。誰かが叫んだら音でもアクションを起こして、逆に静かなところでは展開を待つ、みたいな。今回の「最終楽章」ではそれがうまくいったと思います。

映像・芝居・音楽を「足して1」にするのが劇伴音楽

鳥越劇伴音楽を作る時と、吹奏楽曲を作る時で、使う脳は違うんですか?

松田全然違います。曲を作るという意味では同じですが、劇伴音楽に関しては、吹奏楽曲を作るときと全く同じ気持ちで書いたら絶対BGMとしてうるさくなってしまうと思うんです。劇伴音楽であれば、演技と映像と音楽、全部足してちょうど1ぐらいになるようにしないといけない。超えちゃうと、なんか情報過多で、「何を聴けばいいの?」「何を観ればいいの?」って分かんなくなっちゃうから。編曲でもそうだと思うんですけど、どこまで足して良いのかを計算して、その情報量を減らしたり、増やしたりっていうのを意識しないといけないのが劇伴なのかなと思っています。

鳥越一方で吹奏楽曲もたくさん書かれてこられていますが、松田さんは吹奏楽の曲を書かれたご経験がないところからいきなり「では、吹奏楽曲を書いてください」って言われて作られたんですよね。

湖東すごすぎる……。

松田吹奏楽曲の作り方も実は誰かから教わったり習ったりしたことがなくって。「吹奏楽ってどんな音が鳴って、どういうことをやっているんだろう」とか、「課題曲ってどういう作り方をしているんだろう」って勉強してまねるところから始めて、だんだんと自分の中に落とし込んでいったんです。一番最初なんて、全楽器の最低音・最高音のリストを横に並べながら手探りで。
書いても結局思うようにならなくて、実際にレコーディングで録ってみたときに「ああ、この楽器なんか気持ちよく吹けているなあ」ってようやく感じられたというか。そういう繰り返しの中でレベルアップしてきました。

鳥越譜面で書いた音と、実際に奏者が鳴らす音は別だと思うのですが、お二人はその整合性をどう擦り合わせていらっしゃるんですか?

湖東想像して、譜面書いて、鳴らしてもらって……の繰り返しで学んでいます。

松田吹いてもらったときに「こうなってくれ!」という想像力を駆使しています。

鳥越ひたすらトライアンドエラーなんですね。

湖東基本的に、吹奏楽器は高い音になればなるほど息の圧力が増す分テンションの高い音になるし、高音楽器は低い音を吹く難易度が高くなることなど、どの楽器にも共通するイメージがあるので、初めて書く楽器についてはそこから想像を膨らませることも多いです。『二十世紀電氣目録』は実は第1話から第6話までと第7話から第12話まで、2回に分けて楽器のレコーディングをしているのですが、そういう意味では、2回目の後半の録音の方がよりイメージ通りになったような気がします。

松田事前にいただいた『二十世紀電氣目録』の劇伴の音源、70曲以上あって、すごい!こんなにたくさん作ってる!ってびっくりしました。

鳥越音楽的なところで少し突っ込んだ話になりますが、『響け!ユーフォニアム』でいう吹奏楽曲のように、劇中で流れる曲と、劇伴として物語を外側から支える存在になる音楽、それぞれで楽器の使い方や作曲の仕方はどのように変わってきますか? 例えばクラリネットやフルートはどちらにもよく出てくる楽器だと思いますが。

松田変えようと思って作ったことはないですけど、打ち込んでみて、プレイバックしてみて、「これだとこの楽器はちょっとうるさいよね」って判断を繰り返しています。

鳥越アニメの場合、劇伴音楽を作る段階では映像がまだできていないことも多いと思いますが、その中でどうやって、「これだとうるさくなっちゃうかもな」みたいな存在感のバランスの判断をしていっているのか興味があります。

松田僕は割と第一印象を信じています。ピアノでまずスケッチデモを作ってみて、改めて音楽メニュー※6を眺めながら再生してみて、その時最初に得た印象を判断基準にしています。これは感覚で説明が難しいものですね。

鳥越結果、ボツになったこともたくさんあるんですか?

松田結構ありますよ。それこそファイル名「Song1」から順番に作っていって、採用してアレンジに移れるのはだいたい「Song7」、つまり第7案くらいからで、それまで作ったものは全部不採用です。

鳥越『二十世紀電氣目録』で同様の質問をすると、オープニング主題歌「ユーレカ・エヴリカ」と劇伴音楽。共通して使われた楽器もたくさんあったと思いますが、それぞれでも楽器の役割は変わってきましたか?

湖東はい。多々ありました。ただ、意図的に変えたと言うよりも劇伴の場合、「こういうシーンだから、こうやって作ろう」って考えながら作った結果、作る脳みそが自然と変わっていくものだと思うんです。
松田さんのお話と同じで、劇伴はあくまで映像や芝居を支えるものだと思っています。そうなると、書くメロディーラインのキャラクターの濃さや、奏者の方が吹く音のキャラクターの濃さにも、一つ一つ気を使う必要があります。協奏曲みたいな難しいフレーズとか格好良すぎるフレーズを書いてしまうと、やはりミュージシャンの方も格好良く演奏したくなってしまうと思うので、そういう譜面は時と場合を選んでいく必要があると思っています。

松田そういえば、個人的な興味で聞きたいんですが、『響け!ユーフォニアム』も『二十世紀電氣目録』も音響監督は鶴岡陽太さんですよね。『響け!ユーフォニアム』の場合、鶴岡音響監督からは、絵コンテに沿って「シーン○○」「タイトル××」といった楽曲のリストをいただきますが、あまり細かいオーダーはありませんでした。湖東さんはどうでしたか?

湖東同じです。絵コンテに沿って、M○○※7「誰々の苦悩」みたいにタイトルだけ書かれていて。

松田そうそう。そのまんまサウンドトラックの曲名になりそうなタイトルが並んでた。

湖東「目録をめぐって・静」「目録をめぐって・動」みたいなシリーズもたくさんありました(笑)。

鳥越鶴岡さんの場合、作家さんの感性や想像力を引き出すために、そうされることも多いですね。おそらく『響け!ユーフォニアム』の音楽メニューの方が、より詩的なタイトルが多かったように思います。

松田ああ、確かに。でも、やっぱり方向性は一緒だったんですね。

楽器を知り、奏者と音を作る

鳥越ミュージシャンの方に細かい感情のニュアンスを表現してもらうにあたって、お二人が気をつけていることはありますか?

松田録音するときに、まず奏者の方に伝えるようにしています。譜面上、そういう音が鳴るよねという共通認識は前提としてあって、その上でどういうふうに演奏してほしいかという情報も、譜面から想像できるように作らなきゃいけないとは思っていますが。

湖東それぞれの楽器に対する理解度を高めておくことも大事だなと思います。もちろん、本当にそういう音が欲しい時もありますが、奏者の方からしたら、そんな低い音をピアニッシモでと言われても無理です!みたいなこともあると思うので、やっぱり楽器に対する詳細な理解がどこまで解像度高く持てているかは大事な要素だと思います。

鳥越お二人はそういった楽器の研究をどうやってされてきたんですか?

松田僕は大人になってからヴァイオリンを始めて、3〜4年くらいやってみました。もうやめてしまったんですが、ポジションチェンジを実際に運指でやってみて、「あ、絶対この音の後、こっちにいきたいよな」っていうようなことが自分でもだんだんわかってきました。そういうことを理解すると、奏者にとっても弾きやすいフレーズになることも多くなってきました。あと、トロンボーンもやっていたので、ポジションを理解した上で、この音からこういう風に持っていけるなというようなことは想像してフレーズを考えています。
最近だと、打ち込みのサンプル音源とかでもレガートと言って、上手な人が弾いたように音のつながりが滑らかで綺麗な音になることも多いので、この音のつながりは色気があるなというような音源を見つけたら、「なるほど、その音域の幅でレガートできれば、その色気が出せるのか!」と実際に曲作りに活かしてみるみたいなこともあります。

湖東私は、今回まさにやってみて金管楽器というものに対する解像度がより高まったという感じです。オーケストラの場合、金管楽器は派手にバーン!と使われることが多くて、自分もそういうアレンジを書くことが多いのですが、今回の劇伴のように、アンサンブルみたいなあえて小さな編成で表現するみたいな経験はこれまで意外となかったなと思うんです。アンサンブルはやっぱり楽器に対する理解がないと書けないので、自分の今まで金管に対して持ってきたイメージや知識を持ち寄って書きました。その上で、1回目の録音に臨んでみて、演奏していただくと、奏者の方がこれは吹きにくいかもな、というようなことが見えてくることもあり。実際に、奏者の方にも「これってもしかして吹きづらいですか?」とその場で質問してみたり、知り合いの奏者に「こういう速めのフレーズもやってみたいけど、できたりするもの?」って聞いてみたり。そういう試行錯誤を重ねていった感じです。

音楽が降りてくるのは「水回り」!?

鳥越せっかくお二人揃ったので、それぞれお互いに聞いてみたいこととかありますか?

松田あります!あの……どういった瞬間に音楽って降りてきますか?

湖東お風呂に入っている時です。

松田やっぱりみんなそうなんですね。僕もトイレに入っている時とかです。

鳥越水回りなんですね(笑)

松田湖東リラックスしている時が一番。

湖東手元でメモを取れないときにこそ一番出てくるっていう。お風呂に入ってて、頭の中にフレーズが浮かんで、「これ覚えておこう!」と思って、体拭いてるうちにもう忘れているんです。(笑)

松田たまに寝ていて、夢の中で印象的なフレーズが浮かんで、起きてからもしばらく流れていることもあったり。

鳥越作曲家さんならでは、という感じですね。枕元でメモしたりするんですか?

松田しません。覚えていたら使えばいいかなって感じです。

鳥越潔いですね。「あの時のあのフレーズめっちゃ良かったのに!」みたいな後悔はないんですか?

松田ありますよ。ただ、そういうものはきっと思い出補正的なものもかかってしまっていると思うので。頭の中に残っていたら採用、残っていなかったらそこまで。

湖東私からも質問します。『響け!ユーフォニアム』ではどうして、「日常」というカテゴリーの中で、あんなに幅広く音楽を書けるんですか?

松田それはそういう状況に置かれたからとしか……(笑)。『響け!ユーフォニアム』は長くやってきていますし、例えるなら「青色」しか渡されなかったから、「青色」でひたすらいろんなものを描いてみたら、気づいたらいろんな色になっていたというか、グラデーションができていたって感じですかね。

湖東なるほど。松田さんの曲は、ピアノや弦楽器の多彩な減衰音というか、魅力的な音の重なりをたくさん感じるんですよね。

松田ピアノはやっぱり決まったコードじゃ表せない和音も多いじゃない?

湖東確かに。

松田和音のレパートリーは、決まった和音のルールの中でも、この音だけちょっと弱くしようとか、そういう細かいところまで考慮しだした結果、増えてきたって感じです。

初心者にも楽しめる、音楽の聴きどころ

鳥越これまでマニアックな音楽談義が続いてきましたが、最後に。そもそも音楽をよく知らない方や、楽器をやったことがない方が、『二十世紀電氣目録』に触れる時、ここに注目するともっと音楽的にも楽しめますよといったポイントはありますか?

湖東金管楽器とか木管楽器って、こんなにいろんなことできるんだよ、っていうのを知ってほしいですね。他の作品と比べて、それこそ劇伴で、金管楽器・木管楽器だけで全て作られているってこと自体が珍しいことだと思います。その違いをぜひ楽しんでいただきたいですね。

鳥越逆に管楽器をやったことがある方に、ぜひここは細かく聴いてほしいというポイントはありますか?

湖東ソロで演奏される曲について、一体何の楽器でソロを演奏しているんだろうというのをぜひ当てて欲しいなと思います。特に英国式ブラスバンドの楽器は当てづらいと思うので。

鳥越松田さん的に『響け!ユーフォニアム』の音楽に触れる際、どんなふうに楽しんでいただくと、より楽しめるとか、吹奏楽への理解が深まるみたいなポイントはありますか?

松田「横の流れ」ですかね。例えば、クラリネットがあるメロディーをずっと吹いていたとします。その後、何の楽器にどういう風に移っていくんだろう、みたいなバトンタッチを追っていくと面白いんじゃないかな。
この楽器のこのメロディーを聴いていたら、今度はこっちの楽器でこんなことが起こったよ、みたいなやりとりに注目していくと、また違う視点で楽しめると思います!

鳥越たっぷりとお話しいただき、ありがとうございました!

松田湖東ありがとうございました!

  • <用語補足>
  • ※1 カウンター:主旋律と同時に奏でられる、別の動きを持つ旋律(対旋律)。
  • ※2 アルペジオ:和音を構成する音を、一音ずつ順番に奏でる奏法。
  • ※3 減衰音:音を鳴らしたあと、次第に音量が小さくなっていく響き。
  • ※4 クラスター:近接した複数の音を同時に鳴らして作る、密集した響き。
  • ※5 フィルムスコアリング:映像の動きや芝居に細かく合わせて音楽を作る手法。
  • ※6 音楽メニュー:どの場面にどんな曲が必要かをまとめたリスト。
  • ※7 M○○:劇伴の各楽曲に付けられる制作上の管理番号。「M」はMusicの頭文字。

『最終楽章 響け!ユーフォニアム』後編
2026年9月11日 劇場公開!
https://anime-eupho.com/

『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』
毎週日曜日23時よりABCテレビ、TOKYO MX、テレビ愛知、BS11にて好評放送中!
Netflixにて世界独占配信中!
https://denkimokuroku.jp/